光ファイバ通信の速度特性

目次
光ファイバ通信の速度特性|SMF/MMF・減衰・分散の影響
光ファイバ通信は、現代のネットワークインフラを支える重要な通信技術です。 インターネットのバックボーン、データセンター間接続、企業の基幹ネットワーク、通信事業者の設備、 クラウドサービス基盤など、大容量・長距離・低遅延が求められる場面で広く利用されています。
LANケーブルが電気信号でデータを伝送するのに対し、光ファイバは光信号を使ってデータを伝送します。 そのため、電磁ノイズに強く、長距離伝送に向いており、数Gbpsから数百Gbps、 さらにはそれ以上の高速通信にも対応できます。
ただし、光ファイバであれば常に高速・長距離通信ができるわけではありません。 光ファイバには、SMFとMMFの違い、減衰、分散、波長、トランシーバ、接続損失など、 通信速度や伝送距離に影響する要素が多数あります。
本記事では、光ファイバ通信の速度特性について、 SMFとMMFの違い、減衰と分散の影響、通信速度と距離の関係を中心に、 エンジニア向けに詳しく解説します。
光ファイバ通信とは
光ファイバ通信とは、ガラスやプラスチックでできた細いファイバの中に光を通し、 その光の点滅や変調によってデータを伝送する通信方式です。
電気信号ではなく光信号を利用するため、金属ケーブルに比べて以下のような特徴があります。
- 長距離伝送に強い
- 高速通信に対応しやすい
- 電磁ノイズの影響を受けにくい
- 盗聴が比較的難しい
- 細く軽量なケーブルで大容量通信が可能
- データセンターや通信事業者網で利用しやすい
光ファイバ通信では、光の通り道となる「コア」と、その周囲を覆う「クラッド」によって光を閉じ込めます。 コアとクラッドの屈折率の違いにより、光はファイバ内部を進みます。
SMFとMMFの違い
光ファイバは、大きく分けてSMFとMMFに分類されます。 SMFはシングルモードファイバ、MMFはマルチモードファイバのことです。
| 種類 | 正式名称 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| SMF | Single Mode Fiber | 光の通り道が1つに近く、長距離・高速通信に強い | 通信事業者網、データセンター間、長距離接続 |
| MMF | Multi Mode Fiber | 複数の光の経路があり、短距離接続に向く | 建物内、データセンター内、サーバルーム内 |
SMFとMMFの最大の違いは、光がファイバ内部を進む経路、つまりモードの数です。 SMFでは光がほぼ単一の経路で進むため、長距離でも信号が乱れにくくなります。 一方、MMFでは複数の経路を通って光が進むため、距離が長くなると信号の到着時間に差が生じやすくなります。
SMFの特徴
SMFは、コア径が非常に細い光ファイバです。 一般的には約9μm程度のコア径を持ち、光がほぼ単一のモードで伝搬します。
光の経路が限定されるため、モード分散が小さく、長距離伝送に向いています。 通信事業者のバックボーン回線や、拠点間接続、長距離のデータセンター接続では、 SMFが広く利用されます。
SMFの主なメリット
- 長距離伝送に強い
- 高速通信に向いている
- 分散の影響が比較的小さい
- 通信事業者網や広域ネットワークで標準的に利用される
- 将来的な高速化に対応しやすい
SMFの主な注意点
- トランシーバがMMF用より高価になりやすい
- 光の取り扱いに注意が必要
- 接続や施工には精度が求められる
- 短距離用途ではMMFの方がコスト面で有利な場合がある
SMFは特に長距離・高速通信を重視する場面で有効です。 10Gbps、40Gbps、100Gbps、400Gbpsといった高速通信でも広く使われています。
MMFの特徴
MMFは、SMFよりも太いコアを持つ光ファイバです。 一般的には50μmまたは62.5μmのコア径を持ち、複数の光の経路を利用して伝送します。
MMFは、光を入射しやすく、短距離通信では機器コストを抑えやすいという特徴があります。 そのため、データセンター内、サーバルーム内、建物内配線などで利用されてきました。
MMFの主なメリット
- 短距離接続で使いやすい
- トランシーバが比較的安価になりやすい
- データセンター内や建物内配線に向く
- サーバ・スイッチ間の接続で利用しやすい
MMFの主な注意点
- 長距離通信には不向き
- モード分散の影響を受けやすい
- 高速化するほど伝送距離が短くなりやすい
- 規格によって対応速度と距離が大きく異なる
MMFは短距離であれば十分に高速な通信が可能ですが、 距離が長くなるほど分散の影響が大きくなり、通信速度に制約が出ます。
OM規格とMMFの性能
MMFには、OM1、OM2、OM3、OM4、OM5といった規格があります。 OMはOptical Multimodeの略で、数字が大きいほど高性能なMMFとして扱われます。
| 規格 | 主なコア径 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| OM1 | 62.5μm | 古い規格。高速通信には不向き | 既存設備 |
| OM2 | 50μm | 1Gbps程度の短距離用途 | 建物内配線 |
| OM3 | 50μm | レーザー最適化。10Gbps以上に対応 | データセンター |
| OM4 | 50μm | OM3より高性能。高速短距離に強い | サーバルーム、DC内接続 |
| OM5 | 50μm | 広帯域MMF。波長多重に対応 | 高速データセンター接続 |
既存のMMF配線を使う場合は、そのファイバがOM1なのかOM3なのかによって、 対応できる速度や距離が大きく変わります。 特に10Gbps以上の通信を検討する場合、OM3以上かどうかは重要な確認ポイントです。
光ファイバ通信における減衰とは
減衰とは、光信号がファイバ内を進むにつれて弱くなる現象です。 光が遠くまで進むほど、信号強度は低下します。
減衰が大きくなると、受信側で光信号を正しく判別できなくなり、 通信エラーやリンク断の原因になります。
減衰は通常、dB/kmという単位で表されます。 これは1kmあたりどれくらい光信号が弱くなるかを示す値です。
減衰の主な原因
- ファイバ素材による吸収損失
- 光の散乱
- 曲げによる損失
- コネクタ接続部の損失
- 融着接続部の損失
- 汚れや傷による損失
光ファイバは長距離通信に強いとはいえ、無限に信号を送れるわけではありません。 距離が伸びるほど減衰が増え、受信可能な光パワーの範囲を超えると通信できなくなります。
光パワーバジェットの考え方
光ファイバ通信では、送信側の光出力、受信側の受光感度、ファイバやコネクタによる損失を考慮して、 通信が成立するかを判断します。 この考え方を光パワーバジェットと呼びます。
簡単に言えば、送信側から出た光が、途中でどれだけ弱くなっても、 受信側が読み取れる強さで届くかを確認する考え方です。
送信光出力 - 伝送路損失 ≧ 受信感度
この条件を満たしていれば、光信号を受信できる可能性が高い。
伝送路損失には、ファイバ自体の減衰だけでなく、 コネクタ、パッチパネル、融着点、曲げ、汚れなどによる損失も含める必要があります。
分散とは
分散とは、光信号が伝送される過程で広がってしまう現象です。 デジタル通信では、光のパルスによって0と1を表現します。 しかし、分散によってパルスが広がると、隣の信号と重なり、 受信側で正しく判別しにくくなります。
分散は、通信速度が高速になるほど問題になりやすくなります。 なぜなら、高速通信では1ビットあたりの時間が非常に短くなるため、 少しのパルス広がりでも信号の判別に影響するからです。
分散の種類
- モード分散
- 波長分散
- 偏波モード分散
これらの分散は、ファイバの種類や距離、波長、伝送速度によって影響の大きさが変わります。
モード分散
モード分散は、主にMMFで問題になる分散です。 MMFでは、光が複数の経路を通って進みます。 経路が異なれば、受信側に到着する時間にも差が出ます。
その結果、送信時には鋭いパルスだった光信号が、受信時には時間的に広がってしまいます。 この広がりが大きくなると、隣のビットと重なり、通信エラーの原因になります。
MMFが長距離高速通信に向かない主な理由は、このモード分散です。 距離が長くなるほど到着時間の差が大きくなり、高速通信が難しくなります。
波長分散
波長分散は、光の波長によって伝搬速度がわずかに異なることで発生します。 光源から出る光には完全に単一の波長だけでなく、ある程度の幅があります。 そのため、波長ごとに到着時間がずれ、パルスが広がります。
波長分散は、特にSMFの長距離通信で重要になります。 SMFではモード分散は小さいものの、長距離になると波長分散の影響が無視できなくなります。
高速・長距離通信では、波長分散を考慮した設計や、 分散補償技術が利用されることがあります。
偏波モード分散
偏波モード分散は、光の偏波状態によって伝搬速度に差が出る現象です。 ファイバのわずかな歪みや製造上のばらつき、外部からの圧力などによって発生します。
通常の短距離通信では大きな問題にならないこともありますが、 超高速・長距離通信では影響が出る場合があります。
通信速度と伝送距離の関係
光ファイバ通信では、通信速度が上がるほど伝送距離に対する要求が厳しくなります。 低速な通信では多少の減衰や分散があっても受信できますが、 高速通信では信号の時間幅が短いため、分散の影響を受けやすくなります。
たとえば、同じMMFでも1Gbpsでは比較的長距離を伝送できても、 10Gbpsや40Gbpsになると対応距離が短くなることがあります。
そのため、光ファイバを選定するときは、 「何Gbpsで通信するのか」 「何mまたは何km伝送するのか」 「SMFかMMFか」 「使用するトランシーバは何か」 をセットで確認する必要があります。
波長と通信速度の関係
光ファイバ通信では、使用する波長も重要です。 代表的な波長には850nm、1310nm、1550nmなどがあります。
| 波長 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 850nm | MMFの短距離通信 | データセンター内接続などで利用される |
| 1310nm | SMFの中距離通信 | 分散が比較的小さく、広く利用される |
| 1550nm | SMFの長距離通信 | 減衰が小さく、長距離伝送に向く |
波長によって減衰や分散の特性が変わるため、 同じ光ファイバでも使用するトランシーバや波長によって伝送可能距離が異なります。
トランシーバの影響
光ファイバ通信では、スイッチやルータにSFP、SFP+、QSFP、QSFP28などの光トランシーバを装着して使用します。 トランシーバは電気信号と光信号を変換する重要な部品です。
トランシーバには、対応速度、対応ファイバ種別、対応波長、伝送距離が決められています。 たとえば、10GBASE-SRは主にMMFを使った短距離接続、 10GBASE-LRはSMFを使った長距離接続に利用されます。
| 規格例 | 主な速度 | 主なファイバ | 用途 |
|---|---|---|---|
| 1000BASE-SX | 1Gbps | MMF | 短距離接続 |
| 1000BASE-LX | 1Gbps | SMF | 中長距離接続 |
| 10GBASE-SR | 10Gbps | MMF | データセンター内短距離 |
| 10GBASE-LR | 10Gbps | SMF | 長距離接続 |
| 100GBASE-SR4 | 100Gbps | MMF | 短距離高速接続 |
| 100GBASE-LR4 | 100Gbps | SMF | 長距離高速接続 |
ファイバの種類が正しくても、トランシーバの規格が合っていなければ通信できません。 SMF用トランシーバにMMFを接続したり、距離に合わないトランシーバを使用したりすると、 リンクが不安定になることがあります。
接続損失とコネクタの重要性
光ファイバ通信では、コネクタやパッチパネルでの接続損失も無視できません。 光コネクタの端面に汚れや傷があると、光信号が減衰したり反射したりします。
特に高速通信では、わずかな汚れでも通信品質に影響することがあります。 光ファイバを扱う現場では、コネクタ清掃や端面確認が非常に重要です。
接続部で注意すべき点
- コネクタ端面の汚れ
- コネクタ端面の傷
- 接続回数による劣化
- パッチパネルでの損失
- 融着接続部の品質
- 曲げ半径の不足
「光ファイバは挿せば終わり」と考えるのではなく、 光パワー、接続損失、清掃、曲げ管理まで含めて扱う必要があります。
光ファイバの曲げと速度低下
光ファイバは細く柔軟に見えますが、過度に曲げると光が漏れ、損失が増加します。 これを曲げ損失と呼びます。
曲げ損失が大きくなると、受信側に届く光信号が弱くなり、 通信エラーやリンク断が発生します。 特にラック内配線や床下配線では、曲げ半径に注意が必要です。
光ファイバケーブルには、メーカーが定める最小曲げ半径があります。 これを無視して強く曲げると、短期的には通信できても、長期的に不安定になる可能性があります。
SMFとMMFの選定基準
SMFとMMFのどちらを選ぶべきかは、通信距離、通信速度、コスト、既存設備によって変わります。
| 条件 | 選びやすいファイバ | 理由 |
|---|---|---|
| 長距離通信 | SMF | 減衰・分散の面で有利 |
| 短距離のサーバ接続 | MMF | トランシーバコストを抑えやすい |
| 将来の高速化を重視 | SMF | 広域・高速通信に対応しやすい |
| 既存データセンター内配線 | MMF | 既存OM3/OM4配線を活用できる場合がある |
| 拠点間接続 | SMF | 距離が長くなるため |
近年では、トランシーバ価格の低下や将来的な高速化を見越して、 短距離でもSMFを選ぶケースも増えています。 一方で、データセンター内の既存MMF配線を活用する場合は、OM3やOM4を使った短距離高速接続も現実的です。
速度低下やリンク不安定時の確認ポイント
光ファイバ通信で速度低下やリンク不安定が発生した場合、以下の観点で確認します。
- SMF/MMFの種類がトランシーバと合っているか
- トランシーバの規格と距離が適切か
- 送受信の光パワーが許容範囲内か
- コネクタ端面が汚れていないか
- ファイバが強く曲がっていないか
- パッチパネルや融着点で損失が大きくないか
- MMFのOM規格が速度に対応しているか
- 機器側でエラーやCRCが増えていないか
光ファイバでは、見た目には問題がなくても、端面の汚れやわずかな曲げによって通信品質が低下することがあります。 銅線LANとは異なる観点での調査が必要です。
まとめ
光ファイバ通信は、高速・長距離・大容量通信を実現するための重要な技術です。 電気信号ではなく光信号を利用するため、電磁ノイズに強く、通信事業者網、データセンター、 企業ネットワークなど幅広い分野で利用されています。
光ファイバには大きく分けてSMFとMMFがあります。 SMFは光の経路が単一に近く、長距離・高速通信に向いています。 一方、MMFは複数の光の経路を利用するため、短距離接続では扱いやすいものの、 モード分散の影響により長距離高速通信には制約があります。
光ファイバ通信の速度特性を理解するうえでは、減衰と分散が重要です。 減衰は光信号が距離とともに弱くなる現象であり、 分散は光パルスが時間的に広がって信号判別を難しくする現象です。 特に高速通信では、わずかな分散や損失が通信品質に大きく影響します。
また、通信速度と伝送距離は、ファイバの種類だけでなく、 使用する波長、トランシーバ規格、接続損失、曲げ半径、コネクタの清掃状態にも左右されます。 光ファイバを選定するときは、SMF/MMF、OM規格、速度、距離、トランシーバ、将来の拡張性を総合的に判断する必要があります。
光ファイバは非常に高性能な伝送媒体ですが、正しく設計・施工・運用しなければ本来の性能を発揮できません。 ネットワークエンジニアは、単に「光だから速い」と考えるのではなく、 減衰、分散、光パワーバジェット、トランシーバ仕様まで含めて理解することが重要です。






